ボヘーム・シガー・モヒート

近所のコンビニに行ったらボヘーム・シガー・モヒートが置いてあった。煙草屋にもあまり置いていない銘柄なのに。懐かしく思って買った。

大学二、三年のとき、キャンパスの近くに住んでいる友人の家を何人かで溜まり場としていた。家主のほかに四人よく来ていて、よくその五人でひたすら無為な時間を過ごしていた。

そのうち四人が喫煙者で、みなおおむねJTのトラディショナルな銘柄を吸っていたが、ときどき夏目坂の煙草屋で物珍しい煙草を買ってきてはみんなで廻しのみしていた。

なかでも仕入れ頻度が高かったのがボヘーム・シガー・モヒートだった。KT&Gという韓国のメーカーがつくっている銘柄で、日本で言うとメビウス・オプション・パープルのような味付きのメンソール煙草なのだが、それと違ってメンソールがきつくなくて美味しい。

それを買ったあと、大学の後輩と落ち合って、それは単に不要になった本を渡す約束だったのだが、向こうからも誕生日プレゼントとして穂村弘の『シンジケート』(サイン付き)をくれた。

後輩と別れた後、買った煙草を吸いながらそれを読んでいると、いつまで「これ」なんだろうという感覚が襲ってきて恐ろしかった。いま二十四だが、二十歳のときも穂村弘を読んでボヘーム・シガー・モヒートを吸っていた。そして部屋ではフィッシュマンズがかかっている。音楽の趣味も変わっていない。

年齢にふさわしいとかふさわしくないとか、馬鹿らしいと思っているものの、三十になっても「これ」だったらどうだろうか。結構厳しい、と思ってしまう自分がいる。でもたぶん三十になっても「これ」なんだろうな。下手に社会に迎合するくらいなら、宮仕えで多少揉まれてもなお「これ」であってほしい、という気持ちもあるけれど。五十でも「これ」だったらもはやかっこいいと思う。